Concepts
概念から探す
身体論を読み解くための20の概念。「哲学的概念」と「実証研究として確立した知見」「まだ論争中の主張」を混ぜないために、 それぞれの現在の位置づけを明示している。
哲学的概念
実証というより、問いの立て方を与える概念
質料形相論
Hylomorphism
あらゆる自然物を質料(素材)と形相(それを何であるかたらしめるもの)の複合とみなす枠組み。生き物においては身体が質料であり、魂が形相である。心身問題が「二実体の関係」になる前の、もう一つの選択肢。
心身一如
Mind-Body Oneness
心と身体を二つの独立した存在としては立てない東洋の思想的枠組み。しかもその統一は前提ではなく、修行や養生の実践を通じて到達される状態として捉えられる。
心身二元論
Mind-Body Dualism
心と身体を、互いに独立した別種の存在とみなす立場。身体は物理法則で説明され、心はその外側に置かれる。近代以降の身体論のほとんどは、この分割への応答として書かれている。
アフェクト/情動
Affect
身体の活動能力が、他のものとの出会いによって増減する変化そのもの。感情を心の内的状態としてではなく、身体と環境の関係の変化として捉える語彙。
習慣
Habit
繰り返しによって身体に沈殿し、意識の介入なしに働くようになった構え。単なる機械的反復ではなく、状況に応じて次の行為の可能性を先取りする身体の知である。
生きられた身体
Lived Body
物体としての身体(Körper)に対し、そこから世界が現れてくる「ここ」としての身体。観察される対象ではなく、あらゆる知覚の出発点であり、世界へ向かう構えそのものである。
運動志向性
Motor Intentionality
表象を介さずに、身体がすでに世界へ差し向けられている在り方。ドアノブに手を伸ばすとき、私たちは関節角度を決めていない。ただドアノブへ向かっている。
オートポイエーシス
Autopoiesis
自らの構成要素を自ら産出し続けることで、自己の境界を維持するシステム。細胞がその典型で、代謝が膜を作り、膜が代謝を可能にする循環をなす。生命と認知を連続させる枠組みの基礎。
社会的身体
The Social Body
身体の使い方・作法・姿勢が、個人の癖ではなく社会集団ごとに学習されたものであり、制度によって訓練され規範化されるという視点。身体は自然の与件ではなく、歴史的に作られている。
エナクティヴィズム
Enactivism
認知を、あらかじめ与えられた世界を内部に写し取ることではなく、身体を持つ生物が環境と関わる歴史のなかで世界と自己が同時に立ち上がる過程として捉える立場。
拡張された心
The Extended Mind
認知の境界は頭蓋骨や皮膚で終わるのか、という問い。ノート・道具・環境の目印が、内部の資源と同じ機能的役割を果たすなら、それらも認知プロセスの一部ではないかとする主張。
確立した知見
再現性のある実証的裏づけがある
固有受容感覚
Proprioception
筋・腱・関節などに分布する受容器を通じて、身体自身の位置・運動・張力を感じ取る感覚。目を閉じていても自分の手がどこにあるかを知っているのは、この感覚のはたらきである。
自由度問題
Degrees of Freedom Problem
身体には無数の関節・筋・運動単位があり、同じ課題を達成する方法は無限にある。それにもかかわらず滑らかに動けるのはなぜか。運動制御研究の基本問題。
内受容感覚
Interoception
心拍・呼吸・消化管・体温・代謝など、身体内部の状態を感じ取るはたらき。感情、動機づけ、意思決定、そして自己の感覚がここから立ち上がるとされ、現代の身体論の中心になっている。
進展中
有望だが決着していない研究領域
論争中
広く知られているが、実証的支持をめぐって論争がある
身体化
Embodiment
心のはたらきが、脳だけでなく身体の構造と、身体が環境と関わる仕方に依存しているという主張。広い主張と、個別の実験的主張を区別することが決定的に重要な領域。
ソマティック・マーカー仮説
Somatic Marker Hypothesis
選択肢を思い浮かべたときに生じる微弱な身体反応が、意思決定を素早く絞り込んでいるとする仮説。理性と情動を対立させる図式への反論として広く知られるが、実証的支持は限定的で論争中である。
能動的推論
Active Inference
知覚と行為を、予測誤差を最小化する一つの過程の二つの向きとして扱う枠組み。予測を現実に合わせるのが知覚、現実を予測に合わせるのが行為である。壮大な統一理論だが、検証可能性をめぐって論争中。