仮説の内容

前頭前野腹内側部を損傷した患者は、知能も記憶も正常で、倫理的問題を理路整然と論じられる。しかし現実の生活では破滅的な意思決定を繰り返す。

ダマシオの解釈は、彼らが失っているのが推論能力ではなく、選択肢に対して身体が反応することだというものである。健常者では、ある選択肢を思い浮かべた時点で微弱な身体反応(皮膚電位の変化など)が生じ、それが選択肢を素早く絞り込む。この身体的な印がソマティック・マーカーである。

主要な実験的根拠がアイオワ・ギャンブリング課題(IGT)である。参加者は四つのデッキからカードを引く。二つは短期的な利得が大きいが長期的には損をする。健常者は、なぜ避けているか説明できる前に、危険なデッキに手を伸ばすときの皮膚電位反応が上昇し、そのデッキを避けるようになる——と報告された。

なぜ論争中なのか

ダン、ダルグリッシュ、ローレンス(2006)の批判的検討が、この分野の標準的な参照点である。主な指摘は次のとおりである。

  • IGTの成績不良は、身体的標識の欠損なしにも生じうる(作業記憶や逆転学習の障害でも説明できる)。
  • 皮膚電位反応と選択の関係は、主張されるほど頑健ではない。
  • 「気づく前に身体が知っている」という物語を支える証拠は、参加者の明示的知識の測定方法に依存している。

さらにバートルとリンクイスト(2015)らは、反復測定データを個人ごとに平均して分析する手法が、生態学的誤謬を生みうると指摘した。

このサイトでの扱い

ソマティック・マーカー仮説は、影響力においてもエレガンスにおいても際立った理論である。しかし確立した知見ではない

身体と情動の関係について、より堅実な足場を求めるなら、内受容感覚の神経基盤研究(クレイグ、クリッチリー)を参照するほうがよい。ソマティック・マーカーは、示唆として扱い、断定を避けるべき水準にある。